2013年1月30日水曜日

建築の2面性について


用・強・美という言葉があります。これは古代ローマ時代の建築家、ウィトルウィウスが著した世界最古の建築書の中に書かれている言葉で、用とは機能を、強とは性能を、美とは美しさを、それぞれ表しています。建築物が成立するためには、この3つの要素が必要だと言うわけです。

前回、建築には自律性と批評性が必要だというお話をしました。これは、用・強・美でいうと、「美」に相当します。

一方、「用」や「強」に相当する、機能や性能も当然ながらとても大切です。これらは、建築自らの内にあるのではなく、敷地条件や周辺環境、施主の要望や好み、法規、コストなどといった建築外部の条件によるものですから、これらを満たすことを建築の「他律性」と呼ぶことができるでしょう。

先日、NHKの番組のなかで建築家の西沢立衛氏が興味深い発言をされていました。曰く、「建築というものは時代を反映したものでなければならない。しかしその一方で、時代を超越したものでもなければならない。もともとそのような矛盾を抱えているのだ。」
これを聞いて、私は次のように考えました。

時代を反映するとはどういうことでしょうか。思うに、それは建築のもつ他律的な部分を指しています。機能や性能というものは、その場その時に合わせてどんどん変化し、社会を写す鏡となるものです。

それでは、時代を超越するとはどういうことでしょうか。思うに、それは建築のもつ自律的な部分を指しています。美しさというのは、永遠普遍の原理があり、それは変わらぬものだというわけです。

したがって、良い建築というのは、建築の自律的な部分と他律的な部分が、高次元で融合しているものだと言えるでしょう。建築の自律的な部分は人々に幸福を与えます。他律的な部分は人々の不幸を減らします。その双方が必要であることは言うまでもありません。

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