2013年2月9日土曜日

なぜ設計に時間がかかるのか


前回までに「建築」に対する私の考え方をご紹介しました。今回のエントリーでは、実際に私がどのようなプロセスで、このように矛盾に満ちた「建築」を設計しているのかをご紹介したいと思います。

建築家・建築士によって、設計のプロセスは様々です。100人いれば100通りのプロセスがあると言ってもよいでしょう。私のやり方も、学生時代、修行時代、そして独立してからを通して、自分で編み出してきたもので、全く同じやり方をする人は、他にはいないことをご了承いただきたいと思います。

私はまず敷地の条件、法規、クライアントの要望などを整理しながら、「ごくごく普通の間取りをつくる」ことから始めます。これは、いわゆるハウスメーカーやパワービルダーがつくる家とほとんど変わらない。まずこのような案をつくることで、全体のヴォリューム感(大きさやたたずまい)、法規をクリアする難易度、そしてクライアントの要望についての実現可能性などをつかむことが目的です。だいたい、このような案をつくるのは2日から3日くらいでできます。ふつうはこの案をたたき台として、詳細をつめていけば建築設計は終了となります。

しかし、わたしたちにとって、ここまでは準備体操。ここからやっと本格的な設計がスタートします。このままでは感動がない。では、この案をどのように展開すれば感動が得られるのか。そこで、やみくもにいろいろな案を考えてみます。実現しそうな案から実現不可能と思われる案まで様々に。そして、大量にできあがった案を、今度は自分で類型化(=パターン分け)してみます。類型化することで、何を考えていたか(=コンセプト)、良いところ、悪いところ等が浮き彫りになってきます。

こうして得られた類型のなかで、可能性がありそうなものについて、さらにそれを展開するかたちで、またやみくもに案を考えてみます。そして、またできあがった複数の案を類型化し、そのプロセスのなかで可能性を探っていきます。このように、「複数の案を考える→類型化→絞り込み」を気の済むまで(笑)繰り返して着地点を見つけることが、私にとっての設計行為です。

ここでいう「可能性」というものが前回までにお話しした、建築そのものに内包される批評性と考えていただいてよいと思います。ここで私が強調したいのは、コンセプトや自律的なテーマが最初にあるのではなく、あくまでも他律的な条件から出発して、それを展開していくなかでコンセプトは「発見される」ものだということです。

直感的でインスピレーションが必要なプロセスと、分析的で論理的なプロセスが交互に繰り返されることで、形態もコンセプトも磨かれていくことがお分かりいただけると思います。実際には、こんなに線形なものではなく、行ったり来たり、ジャンプしたりともっと複雑な思考回路を辿ることが多いのですが(汗)。

いずれにせよ、こんなことを繰り返していく訳ですから、基本設計に最短でも3ヶ月は必要ですし、1週間で設計しろと言われても「深みのある」ものをつくるのは難しいです。また、設計に時間を掛けたいもう1つの理由としては、お施主様自身が決断するのに時間が必要だということもあります。

わたしたちは当然、当初のお施主様の希望やイメージを「超える」ものをつくろうと思って、上記のように手間隙をかけているわけですから、出てきたものはお施主様からすると、ほとんど想像してなかったものになっているはずです。そうすると、それが良いのか悪いのか、お施主様が判断するだけでも、どうしても時間が掛かってしまうのです。やはり設計期間に充分な余裕がないと、コミュニケーションさえままならないという訳です。

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